~債務超過の子会社に対する債権放棄の取り扱い~
現在の企業経営は独立した一社ではなく、資本関係で結ばれたグループとして行われることが多い時代です。
しかし、法人税法は資本関係で結ばれたグループ内の法人間であっても、独立した第三者として考えられて作られた法律が多いのが現状です。
今回テーマに挙げる「債務超過の子会社に対する債権放棄の取り扱い」も同様です。
グループ経営を進めている企業団においては、債務超過の子会社に対する債権放棄は、親会社として当然の経済行為のように感じます。
しかし、法人税法では、
原則として寄附金として処理され、「相当な理由」があれば寄附金に該当しないとしています。
(法人税法37条7項)
そして寄附金は一定限度額を超える部分は、損金不算入として加算流出処理されますので、思わぬ課税が行われる虞があります。
この点ですが、回収可能な金銭債権の無条件な放棄を損金として認めてしまえば、簡単に租税回避が行われるため、当然といえば当然ですね。
では、相当な理由とは何でしょうか。
法基通9-4-2によると、
「その債権放棄等が子会社等の倒産防止のためにやむを得ず行われるもので,合理的な再建計画に基づくものであるなど,その債権放棄等に
「相当な理由」があると認められるとき”は,寄附金に該当しない」とされていいます。
この相当な理由については、東京高等裁判所で争われた事例があります。
その際、東京高裁(平成27年11月26日判決)では以下の点について検討しています。
①損失負担の必要性(業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるか)
②再建計画の合理性(合理的な再建計画に基づくものであるか)
上記の検討内容は「№5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」で国税庁が示している指針とほぼ合致しています。
そして上記の東京高等裁判所の案件では倒産防止のためやむを得ず行われたものではないと判断し,
本件債権放棄には, 法人税基本通達9-4-2 の「相当な理由」があるとは認められないと判断されました。
(平成27年(行コ)第197号,原審:東京地裁・平成24年(行ウ)第847号・平成27年4月24日判決)。
法人税法上,回収可能な金銭債権の放棄は,債務者に経済的利益を無償で供与したことになるため,原則通り寄附金として処理されることとなります。( 法法37⑦ )。
本件のように,子会社に対する債権放棄に 法人税基本通達9-4-2 の「相当な理由」があるか否かを巡り争われた事例は少ないです。
同通達で寄附金該当性について一定の基準は示されているものの,
争点のほとんどは事実認定の当てはめになります。
本件は,債権放棄に相当の理由がないと判断された一つの事例として非常に参考になる事例だと思います。
少なくとも,本件のように,子会社が債務超過であることのみをもって,
同通達を適用できるわけではなく,①損失負担の必要性と②再建計画の合理性を考慮する必要があることに留意してください。
上記①②の具体的な内容については,
国税庁ホームページのタックスアンサー〈№5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等〉で示されているので、実際の実務では事前にこちらのタックスアンサーに沿って慎重に検討する必要があると思います。
国税庁のタックスアンサーと東京高裁の検討過程は以下の通りあてはめ可能です。
東京高裁の①については,
(1)
被支援者は支援者と事業関連性のある子会社等であるか,
(2)
被支援者が債務超過の状態にあることなどから資金繰りがひっ迫しているなど,被支援者が経営危機に陥っているか,
(3)
被支援者を再建することによって残債務の弁済可能性が高まり,倒産した場合に比べ損失が軽減され又は支援者の信用が維持されるなど支援者が損失負担を行う相当の理由があるか
東京高裁の②については,
(4)
要支援額(総額)が,被支援者の財務内容,営業状況の見通し等から的確に算定されているか,また,被支援者の自己努力を加味したものとなっているか(支援額の合理性)
(5)
支援者が被支援者の再建状況を把握し,例えば,再建計画の進行に従い支援の打切りや追加支援を行うための計画の見直しを行うといった手当てがされることになっているか
弊社で実施した案件では、上記の5つの視点に慎重に検討した後に、国税局へ事前照会を実施いたしました。
最終的には損金として認められたのですが、そこでは、上記のうち、①の(3)について、特に検討がなされました。
親会社はこの債権放棄、損失負担をすることによって、どのような損失を回避できるのか、
少なくとも債権放棄した金額より多くの損失を回避できることを根拠をもって説明することを求めらています。
子会社への債権放棄はたぶんに事実認定が含まれているため、処理するまえに国税局に事前照会することをお勧めします。
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